八城兄弟は僕(=わたし)を愛でたい!
 藍くんの手には、写真立てがあった。家族三人で旅行へ行ったときのだ。

「この真ん中の女の子。なんでアオイいないの?」

 まともな質問をされて、ごくりとのどがなる。

 もしかして、もう正気に戻ったの?
 ここで正直に答えたら、バレてしまうのでは……。

「あー、えっと、それは……妹」
「妹?」
「そう! 僕あんまり写真好きじゃないから、僕が撮ったんだ。それ」

 とっさに出た言い訳が、おそろしく下手で自分でびっくりしている。

「アオイって、四人家族だったのか」
「……まあね」

 助けてと視線を送るけど、どうしようもできないと言いたげな椿くん。
 自業自得だけど、どうしたらいいの。小さな嘘が積み重なって、嘘が大きくなっていく。

「兄妹そろってかわいいな」

 トロンとした目のまま、藍くんがにこにこしている。
 よかった。まだ、チョコレートの効果が切れたわけじゃないんだ。

「でも、この子どっかで……」
「そろそろ帰ろう。このまま、藍が戻らなかったら大変だ。珀なら、なにか分かるかも」

 その通りだ。椿くんの言葉で、場が引きしまる。

 すべての窓を閉めて、シャッターを閉める。あとは電気を消して、鍵をするだけ。

「アオイの部屋見たい」

 スイッチを押す指が止まった。
 空耳のようなセリフを、もう一度、頭の中で繰り返してみる。

「えっ、ダメだよ。ムリ、ムリ!」

 そんなことしたら、わたしが女子だとバレてしまう。

 いきおいよく首をふりながら、椿くんを見た。
 男の部屋なんて見ても、つまんねぇぞ。とか、時間ないから行くぞ。と、藍くんをあきらめさせてください。お願い。

「……俺も、見たい」
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