八城兄弟は僕(=わたし)を愛でたい!
 この裏切り者ーー!
 心の中で叫びながら、おそるおそる二階へ向かう。

 出てきたとき、どんな状態だったかな。
 ちゃんと片付けてあるか心配……じゃなくて、藍くんに見られたらマズイ物はすぐに隠さないと。

 部屋へ入って最初に飛び込んできたのは、ベッドの上に出したままの上着。どれを着ていくか迷って、そのまま家を出たのだった。

 すばやく手の中へ隠すと、クローゼットの前に立つ藍くんを引き止める。

「ここ見たい」

「ダメ。それだけは、ほんとに」

「ケチ」

 くちびるをとがらせる藍くんを引っ張りながら、本棚へ。少女マンガばかりだけど、いくつか少年マンガもある。
 このコーナーは、妹の物という設定にしておこう。

「なんか、思ってた通りだなー。アオイ、かわいいもの好きなんだな」

 棚に飾ってあるのは、女子の好む小物。

「あ、あんまり見ないでくれ」

 モザイクをかけるように、藍くんの目の前で手を動かす。まだ、いつも通りに戻らないで!

「……碧は、戻りたい?」

 机の上を見つめながら、椿くんがぽつりとつぶやいた。

 パステル紫のペンケースや、カラフルなノートが置いてある。
 男子の姿になってからは、紺や黒の新しいものに変えた。前の学校の男子は、そうゆうのを使っていたから。

「もしかして、今の自分でもいいって思ってる? 戻れなくても、いいって」

 避けて話してくれなかった椿くんが、やっとまともに顔を見た。

 ーー男子のままでいたら、この笑顔を壊さないでいられるのかな。

 上手く答えられない。
 女子に戻りたい自分も本物だし、このままでいいと思うのも事実だから。
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