八城兄弟は僕(=わたし)を愛でたい!
「もちろん、好きだ」

 恥ずかしがる素ぶりもなく、藍くんは間髪入れずに答えた。

「椿は?」
「なに、急に」

 自分にフラれると思っていなかったらしく、椿くんが気まずそうにする。

「答えられないの?」

 意地悪な顔をして、琥珀さんが挑発した。
 椿くんは、わたしが男じゃないと知っている。それに、好きな人が……。

 学生証のケースに入っていた写真を思い出して、おかしな感情がわき上がった。

 ううん、勘違いだよね。うぬぼれたらいけない。
 でも、もしかしたら、椿くんの好きな人って……。

「好き、だよ」

 消えてしまいそうな声がした。
 言いづらそうに、椿くんは口元を隠す。

 いつものような無表情だけど、ほんのり耳が赤い。

 違うと分かっていても、期待しちゃうよ。

「俺もアオイくんのこと好きだよ。八城家の一員だと思ってる。ずっといてくれたらいいなって」

 ポンポンと頭をなでられた。
 琥珀さんは、不思議な空気をまとっている。

 頬にキスされたときは、怖い、近づいちゃダメだと思っていたけど。
 最近は、ほんとうのお兄さんみたいで、女の子じゃなく人たらしなのだと気づいた。

「じゃあ、そろそろかな」

 にこにこする琥珀さんが、藍くんにバチンとデコピンした。
 ゆらゆらと後ろへ下がって、一瞬だけ白目になる。

 えっ、なにしてるの?

 倒れそうな藍くんを支えるけど、前から糸で引っ張られたみたいに、シャキンと立ち直った。

「……藍くん? 大丈夫?」

「わっ! な、なんだこれ!」
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