八城兄弟は僕(=わたし)を愛でたい!
 相手の子の口調が、少しだけツンと(とが)る。

 モテるのに、誰とも付き合わない。そんな噂が流れていたのをチラッと思い出した。
 カノジョを作るよりも、勉学に励みたい人なのかな?

 足音が近付いてくる気がして、速やかに立ち去ろうとした時。

「……碧」

 名前を呼ばれて、無意識に返事をしていた。

 うそ、バレてた?
 気まずさが押し寄せるより先に、窓越しから伸びてきた手に首を取られる。

「こうゆうこと」

 言いながら、唇が触れそうなくらい近づけられた顔。
 見開いた状態の目が、うつろに下がる目の前のまぶたに釘付けになった。

 ど、どういう状況⁉︎

「……動かないで」

 小さく動く唇から、息がかかってくすぐったい。

 そのうちに女の子が走り去って行く音が聞こえて、顔が離れた。

「ごめん。断る理由が見つからなかったから、つい」

 相変わらずのクールな表情で、窓を上まで押し上げる。そのまま、ひょいっと校舎の中へ入って来た。

 びっ……くりした。キスされるかと思った。
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