八城兄弟は僕(=わたし)を愛でたい!
 気づいたら、前を歩いていたはずの琥珀さんが見えなくなっていた。
 離れすぎたかもしれない。おまけに、よそ見ばかりして。

 方向転換したとたん、大きな肩にぶつかってよろけた。倒れそうになるけど、腕をつかまれて助かった。

「大丈夫?」

 見上げたら、高校生くらいの男子が三人。明るめの髪、耳にピアスをしている。怖そうな雰囲気に、一歩足が下がる。

「すみませんでした」

 逃げようとするけど、手を離してくれない。
 どうしよう、怖い。それに、とてもイヤ。

 椿くんや琥珀さん、穂村さんたちとは全然違う。
 知らない人に触られるのって、こんなにもゾッとするものなんだ。

「かわいいね。これから、一緒に遊ばない?」

「えっ、あの……」

 背中から圧をかけられて、歩かざるをえない。
 すきを見て逃げるにも、手をつかまれていてはーー。

「なにしてるの?」

 優しい笑みを浮かべた琥珀さんが、わたしの顔をのぞきこむ。

 琥珀さんだ! よかったとホッとするけど、油断はできない。

「助け……て」
「なんだよ、おまえ」

 弱々しい声は、彼らの声にかき消された。
 琥珀さんの表情が、瞬時に変わる。

 するどい目。高い身長と整った顔が、よけいに空気をゾクッとさせた。

「アオイ、おいで」

 相手がひるんだすきに、わたしの手をとって引き寄せる。
 男子高校生たちは、舌打ちをして去って行った。

 まだ心臓がドキドキしている。街を歩いていてからまれたのは、初めてだったから。

 指でおでこをはじかれて、琥珀さんの口が少し怒っていると気づく。

「いきなりいなくならないでね。心配したよ」

「ごめんなさい」

 小さな子どもみたいな行動をしてしまった。
 しまいには、連れ去られそうになるなんて。迷惑かけてばかりだ。

「それから、前も言ったよね。自覚しなって。アオイちゃんは、かわいいんだから」
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