八城兄弟は僕(=わたし)を愛でたい!
 真顔で言われると、なにも返せなくなる。
 今まで褒められる経験がなかったから、どんな反応が正解なのか見つからない。

「あ、そういえば」

 斜めかけのウエストバックから、琥珀さんが小さな袋を取り出した。
 となりに立って、わたしの耳になにかをつけている。

 なんだろう? イヤリング?

 教えられないまま手を引かれて、神社の前にある置物を指さされた。よく見ると、鏡を持っている。

「えっ、これって」

 そこには、耳元でゆれるエメラルドグリーンの月が、キラキラと映っていた。

 藍くんのバースデーと歓迎会の買い出しをしたとき、わたしが手に取ったもの。

 どうして、琥珀さんがこれを……?

「ほんとは、髪をセットしたときに渡すつもりだったんだけど。忘れてて、ごめんね」

 もしかして、今日のためにわざわざ買ってきてくれたの?
 それとも、もっと前から……だとしたら、どうして。

「ありがとう……ございます。すごく、かわいいです」

 自分に似合うわけがない。
 前はそう思っていたのに、不思議。
 今は胸がドキドキして、心がはずんでいる。

「アオイくんにも似合うと思うよ」

「……え?」

「気持ちを抑え込まなくていい。男だからとか、女だからなんて関係ないよ。君は、三葉碧っていうひとりの人間でしょ?」

 頭をポンとされて、体がしずんだ。
 ほんの少し手が乗っかっただけなのに、わたしにはとてもずっしり感じたの。

 琥珀さんの想いが、嬉しかった。
 男子でも女子でもないわたしを、ありのまま、受け入れてもらえた気がして。
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