八城兄弟は僕(=わたし)を愛でたい!
 二年二組の教室。メイド服に手を通して、リボンを結ぶ。
 ツインテール、黒髪ストレート。それぞれのウィッグをつけて、男子たちがメイクをほどこす。

 星園学園中等部による、学園祭が始まるのだ。

 うちのクラスは、【ナイト&プリンセスカフェ】をする。よく少女マンガで見る男女逆転の出し物だ。

「うげぇ、おまえひっでーな」

「お前に言われたくない。どっちもどっちだぞ」

「普通はこうだよ。これが当然の結果」

 男子たちが、お互いについて言い合っている。

 そのわきで肩をゆらしながら、笑うのをこらえていた女子たちの目がキラキラとし始めた。

 着替えを終えて出てきた椿くんが、注目をあびている。

 スラっとした長身に、整った顔立ち。黒のロングヘアが様になっていて、教室の空気が一気に変わった。

「……やば、超絶美人」

 モデルさんみたいな椿くんに、みんな釘づけ。予想通り、ううん、それ以上だ。

 女子の騎士姿もカッコよくて、宝月(ほうげつ)歌劇団みたいな子もいる。
 この完成度なら、お客さんの呼び込みもかなり期待できそう。

 前半組の準備が終わって、次はわたしたち後半組。パーテーションの仕切りを使って、それぞれが衣装へ着替える。

 メイド服を持って、一度深呼吸する。

 二組の出し物を知ったとき、正直抵抗があった。
 女子であるわたしがスカートをはいたら、みんなに気づかれちゃうんじゃないかって。

 でもーー。

 鏡を見ながら、パチンと月のイヤリングをつける。

 どのわたしも本当の自分だから、堂々としていたらいい。そう気づけたから、今はそれほど怖くない。
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