八城兄弟は僕(=わたし)を愛でたい!
 だらだらと冷や汗が流れてくる。
 わたしに会いたいなんて、おかしい。なにかあるとしか思えないよ。

「時間あるとき、一緒に、回れないかなぁって」

 くちびるの先がツンととがって、なんの意識もしていない顔をする。最近わかった、穂村さんのくせだ。

「ああーー、ごめん。もう、約束してて」

 わたしは嘘をついた。
 遠野さんに会うのが怖くて、逃げている。

「……そっか。そうだよね。ごめん、変なことお願いして。じゃあ、頑張ろうね」

 泣きそうになりながら、穂村さんはすぐ背を向けて走って行った。

 ごめんなさい。

 あなたの想いに応えられなくて、ごめんなさい。

 あなたの気持ちを踏みにじるようなことをして、ごめんなさい。

 自分勝手だけど、穂村さんとはずっと友達でいたいから、隠し通すしかないの。

 お客さんがやって来て、校内はあっという間ににぎわい始めた。

 一階の体育館通路で、呼び込みをする。

「日頃の部活や勉強での疲れに! かわいいプリンセスが、あなただけのメイドになってくれるスペシャルなカフェをご存知ですか〜?」

「恋愛のストレスも吹っとばせ! 美しい騎士(ないと)に尽くされてみませんか〜?」

 安斎さんと矢野さんのノリノリ勧誘に、通りゆく人たちが圧倒されている。

 まだ一人も引き込めていない。他のクラスには、少しずつお客さんが入っているのに。
 これは、いきなりピンチだ。二年二組のため、わたしも頑張らないと。

 二人のとなりに立って、ダンボールの看板を持ち上げる。

「甘〜いマドレーヌやふわふわシフォンケーキはどうですか? 二年二組のナイト&プリンセスカフェ、遊びに来てください!」

 緊張で手が震えたけど、数人が立ち止まってくれた。

「あなた、男子なの? かわいいね」

「あー、わかった。小動物系って言われてる三葉先輩じゃね?」
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