八城兄弟は僕(=わたし)を愛でたい!
「えっ、いや……そんな怖い顔されても。俺、べつに男なんか興味ないし」

「わけわかんねー」

 まわりの目を気にしてか、男子たちは足早に去って行った。
 あの人たちには申し訳ないけど、遠野さんと会わずに済んでホッとした。

「まぎらわしいこと言って、ごめん。ちょっと、びっくりしただけで、なにもないよ」

「さっき碧のこと、ほんとに男かって聞いてたから」

 まわりに聞こえない声で、椿くんがぽつり。

 気にかけてくれたことが嬉しくて、ありがとうと顔を上げたとき。

 グキッーー。段を踏み外して、階段の上から落ちそうになる。
 ヒヤッとした体は、椿くんの腕にがっちりと受け止められていた。

「大丈夫か?」

「……ありがとう。いっ……た」

 足首がジンジンして、熱くなっていく。今ので足をくじいたみたい。

 引きずって歩くと目立つから、少し休んでから保健室へ行こうかな。

「椿くん、先に二組へ……」

 話終わるより先に、ふわりと体が宙に浮いた。
 椿くんが、軽々とわたしを抱き上げている。

「えっ、な、なにしてるの⁉︎」

「足、痛むんだろ? 保健室行こう」

 階段の一番上から、さっそうと降りて行く。

 まわりの視線がバシバシと向けられる。
 メイドがメイドをお姫さま抱っこしているのだから、注目されるのは当たり前だよ。

 指をさされて内緒話をしたり、写真まで撮っている人もいる。

 恥ずかしくなって、椿くんの胸に顔を隠した。
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