八城兄弟は僕(=わたし)を愛でたい!
 保健室へ着いたら、先生が湿布を貼ってくれた。軽いねんざらしい。
 しばらくここで休ませてもらうことになった。

「腫れてくるようなら、病院へ連れて行ってもらいなさい。無理しちゃダメだよ」

「ありがとうございます」

 ベッドに腰を下ろして、ため息をはく。

 わたしのせいで、宣伝係が一人減ってしまった。一人一人、役割分担してあるのに。

 そばのイスに座る椿くんが、静かに口を開いた。

「碧の当番は十一時からだろ。急がなくていい。歩けないなら、俺が変わる」

「うん、ありがと。たぶん、行けるから大丈夫だよ」

 椿くんは、いつも優しい。甘えてばかりで、わたしは何もお返しできていない。
 自分の仕事くらいは、(まっと)うしないとバチが当たるよ。

 ふと、棚の上に置かれている本に目がいく。

【思春期】という文字が見えて、ドキッとした。
 先生は、養護の勉強をして先生になったのなら、なにか知っているかもしれない。

「思春期症候群って……知ってますか? ジェンダーなんとかっていう」

 先生と椿くんが同じ顔をして、こっちを見た。
 驚いたような、キツネに頬をつままれたような顔というのかな。

「十二〜十七歳くらいの間に起こる性別反転病(せいべつはんてんびょう)のことね。でも、あまり症例は多くないから、サラッとしか習わなかった。実際に会ったことはないかも。まあ、なっても言わない子の方が多いのかもね」

 書類を整える先生に、わたしは続けて聞く。

「それって、ちゃんと……治るんですか?」

 大きくなる心音を押さえながら、小さく息をする。

 ネットで調べても、詳しいことはわからなかった。
 このまま、男子でいいと思うこともあるけど。女子に戻りたい自分もいる。
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