八城兄弟は僕(=わたし)を愛でたい!
「治るって表現が正しいのかわからないけど。治療方法は、自然治癒しかないみたい。アレは、心の病に近い現象だから」

 何かにサインをして、先生は書類をファイルへ閉じた。

「いろんな条件が重なって起こる、ごく稀で繊細な病なの。ある程度の時期が過ぎると、一生付き合っていくことになるみたいよ」

 それだけ言うと、職員室へ行って来ると出て行った。
 黙ったままの時間が、一分ほど続いた。
 先に口を動かしたのは、わたし。

「心の病気か……。どうしたら、治るのかわかんないんだね。ある程度の時期って、いつだろう。一年? 二年? それとも、年齢のことなのかな」

「碧……」

「一生、このまま……か。なんか、急に、不安に……なってきた」

 ぽろぽろと涙があふれて、衣装に水玉がはじけていく。
 泣くつもりなんかないのに、自然にでてくる。

 心が不安定になっているからなのか、体が女子に戻っていた。心臓がおかしい。

 自分で思っているよりも、ずっとずっと大きなことだったんだ。

「……碧、俺は」

 そのとき、ガラッとドアが開いて、騎士姿の穂村さんが入ってきた。

「八城くん、やっぱここにいたー! 二班、もうすぐ交代だよ。みんな探してた」

「あ……、悪い」

 チラッとこっちを見て、椿くんがなにか言いたげに口を開きかけた。
 でも、すぐに閉じられてしまう。

「無理するなよ」

「うん、ありがと」

 さっきなにを話そうとしていたのか。わからないまま、椿くんは名残(なごり)惜しそうに保健室をあとにした。
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