八城兄弟は僕(=わたし)を愛でたい!
「思ってないよ。ただ、言い出せなくて」

 不安の色が声に出ている。
 隠していたのは本当だけど、誤解されたくない。

「八城椿と一緒に暮らしてるんだよね? 近づくためなの? みんなは知ってるの? そうゆう病気があること、初めから言えばよかったじゃない。だったら、こんな気持ちになんか、ならなかった!」

 涙を浮かべながら、穂村さんは保健室を出て行った。

 握りしめたこぶしに、ポタリと涙が落ちていく。

 こうなることは、初めから予想がついていたじゃない。
 どんどん嘘を積み重ねて、取り返しがつかなくなって。穂村さんを傷つけた。

 布団の中にくるまって、しばらく出ることができなかった。

 三班の交代時間が過ぎるころ、わたしはむくりと起き上がり二組の教室へ向かった。

 寝ていたから、ウィッグが乱れてひどいことになっている。

 美術室の前まで来て、椿くんに声をかけられた。制服に着替えているから、自分の担当時間は終わったのだろう。

「碧、もう大丈夫……なのか」

「この通り! 動くとまだ少し痛いけど、腫れてる感じはないよ」

 ヘラッと笑ってみせるけど、口の端が下がっていく。
 いつも通りの顔ができない。油断すると、泣いてしまいそうだ。

「なにかあった?」

 首を横にふるけど、両手をつかまれて、隠そうとした目があらわになる。

「碧は嘘つくの、下手だから」

 こっちと手を引かれて、美術室の中へ入った。
 ちょうど今は昼休憩で、作品の展示場であるここには誰もいない。

 内側から鍵をして、わたしは強制的に椅子へ座らされた。
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