八城兄弟は僕(=わたし)を愛でたい!
「あ、三葉くん。久しぶり! 元気だった?」

 普通に声をかけられて、固まってしまう。
 わたしが三葉碧だと知っているのに、男子として接している。

 どうゆうつもりなんだろう。
 それに……。チラリと視線を送ると、穂村さんは気まずそうにしてこっちを見ない。

 この様子だと、穂村さんも話していないのかな。それとも、人の多い場所だから、気を使ってくれているのか。

 となりに立つ椿くんが、わたしの肩を引き寄せる。いざとなったら、助けてくれるって。

「私、あれから秋斗と別れたんだー」

「そうなんですね」

「ちゃんと話したよ。それで、もう終わりって決めた。三葉くんのおかげ。ありがとね」

「……いえ、僕は、なにも」

 女だとバレている人たちの前で、僕を使うのに抵抗がある。早くこの場から逃げ出したい。

「僕じゃなくて、わたし、でしょ?」

「……えっ」

「今はメイドなんだから」

 ビシッと指をさされて、ドキッとした。
 椿くんもヒヤッとしたらしく、わたしを背中へ下げていた。

 三葉碧は女子だと、みんなの前で暴露されるかと思った。

「素敵な騎士(ナイト)がついててうらやましい。私にも現れないかなー。ねっ、みや」

 さっきから一言もしゃべらない穂村さんが、チラッとだけ顔を上げる。
 開きかけた口は、またなにかを飲み込んで閉じた。

 前みたいには、もう戻れないのかな。

 涙があふれそうになったとき、ギュッと手がうばわれた。

「大丈夫。俺がいるから」

 二人にしか聞こえない声で、ささやきが落ちてくる。

 衣装の袖と背中で隠しながら、椿くんがずっと手を繋いでくれていた。
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