八城兄弟は僕(=わたし)を愛でたい!
 その日の夜。お風呂から上がり、ほわんとしながら階段をのぼる。

 神社での出来事を思い出して、さらに顔が熱くなる。
 夢みたいな話だけど、現実なんだ。まだふわふわしていて、信じられない。

 信じられないと言えば、どうやらおさまったみたいなの。

 女子に戻ってから、もう数時間は経っているけど、男子にならない。前にも一度あったから、油断はできないけど。

 もしかしたら、心の病が消えて思春期症候群が治ったのかな。

 アメリカへ行くまで、あと二週間残っているから、バレないように気をつけないと。

 階段を上りきったところで、いきなり首を取られた。ガッチリと腕の中に入り込んでいる。

 慌てた様子の藍くんが、静かにしろとささやきながら、わたしの部屋へ入り込む。

 一体、なにごと⁉︎

「早くこれ隠せ! 急げ!」

「えっ、なに?」

 押し付けられた紙袋から、ウィッグやレースのワンピースがはみ出していた。
 これは、わたしが琥珀さんのウソカノをしたときに買ってもらったものだ。

 見つからないよう、クローゼットの奥へしまったはずなのに、どうして。

「階段に散乱してたんだよ! たぶん、スカイのしわざだ。珀や椿に見つかったら、めんどうだろ!」

 必死な藍くんの声にハッとする。

 わたしが女子だと知らないのは、八城兄弟の中で藍くんだけ。女物を好む男子だと思っている。

 知られたくないだろうと教えてくれたのに、わたしは騙している。
 申し訳ない気持ちと、見られたくない思いがわき出てきた。

 琥珀さんと出かけたこと、椿くんには言っていない。このワンピースが見つかれば、仮でもデートをしたとバレてしまう。

 誰にでも付いていく子だと、幻滅(げんめつ)されたくない。
 みんなのことは好きだけど、椿くんへの好きは特別だから。

 ドアのノックがして、心臓がヒュンと縮まった。クローゼットを開けたときには、部屋のドアも開いていた。
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