八城兄弟は僕(=わたし)を愛でたい!
「……碧、藍。なにしてるの」

 低い声にそろりと振り向くと、スカイを抱っこした椿くんが真っ黒い目でこっちを見ていた。

「その服、なに?」

 紙袋から水色のワンピースがはみ出している。言いのがれはできない。

「これは、その」

「オレが星園祭で使った服だよ! アオイ似合いそうだから、一回着てみろよ〜って話しててさ。なっ、碧」

 笑いながら、藍くんがわたしの背中をポンと叩く。

「藍のクラスって、たしかダンボール迷路だったよな」

「……あっ」

 しまったという表情で、藍くんは「そうだっけ」ととぼけている。
 わたしをかばうために、嘘をつかせてしまった。

『友達だと思ってたのに。ウソツキ』

 ふと小学生の時の記憶が、頭をよぎる。

 大好きだった友達から、ひどいことをされたと思ってきた。わたしの気持ちを決めつけて、信じてくれなかった。

 でも、今なら少しわかる気がする。もっとちゃんと話せていたら、あの子に思いを伝えていたら、なにか違ったんじゃないかって。

『初めから言えばよかったじゃない。だったら、こんな気持ちになんか、ならなかった!』

 素直でまっすぐな藍くんを、ウソツキにしたくない。
 もうこれ以上、みんなを騙すのはやめよう。

「わ、わたしの……です」

「アオイ?」

 ワンピースを握りしめながら、グッと歯を食いしばる。

 前を向いて、勇気を出すの。怖がっていたら、なにも変えられない。

「わたしの、ワンピース」
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