八城兄弟は僕（＝わたし）を愛でたい！
急接近でバレちゃいそう！
　夕食を囲む席に、八城家の主が初めて現れた。椿くんたちのお父さんは、そこそこ名の知れた会社の社長さんらしい。

　そんな人が遠い親戚だったことも驚きだけど、仕事が忙しいみたいで、夜遅くにしか帰って来ないのだとか。

「碧くん、さあどんどん食べて。ちゃんと力を付けないとな」

「……はい」

　テーブルに並べられているのは、レストランの料理をデリバリーしたもの。昨日は別の店のもので、今朝はパンとミルクコーヒーだった。

「藍(らん)、食べないのか？」

「食欲ないから、いらね」

　一口も食べないで、藍くんは二階へ上がってしまった。

　八城家に、お母さんはいない。
　六年前、突然この世を去ったらしい。
　その話を聞いた時、どんな反応をしていいのか分からなかったけど、みんな普通に振る舞っていた。

　たった三ヶ月離れるだけでも寂しいのに、八城家の人たちは強くて優しい。


　ご飯を食べ終えて、バスルームへ向かう。
　男子の体にまだ慣れないけど、目をつぶってタオルを巻いてしまえばなんとかなる。

　広い浴槽の水がミルク色をしているのは、藍くんが入浴剤をいれているようだ。

　昨日は甘酸っぱい苺で、今日はフローラルの香りがする。そうゆうところ、わたしより女子力が高い。

「はぁ〜、癒される〜」

　肩まで浸かったところで、ガラッとドアの開く音がした。
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