八城兄弟は僕(=わたし)を愛でたい!
 小柄な二人がお互いの腕を組み合って、声を重ねた。

「うちら、三葉くんと同じクラスの安斎アイと矢野マイです〜」

 双子タレントのように息がピッタリで、思わず感心する。じゃなくて!
 名前どころか顔すら認識していなかったことに、罪悪感が生まれた。

「……ごめん。まだ、みんなの顔と名前覚えきれてなくて」

「そんなことは日常茶飯事、問題ない。ただ、助けてあげた見返りって言うのかなぁ」

「そうそう。お願い聞いてもらえますか〜?」

 ニタリと笑った顔に、ごくりとノドが鳴る。さっきの子たちとは別の意味で緊張が走った。

「な、なんでしょう?」

「うちら、漫画研究部ってのに入ってるんだけど。モデルになってくれる人を探してたんだよ」

「そうそう。男同士の友情を描きたくて。椿様もご一緒にいいですか〜?」

 目をキラキラとさせながら、二人はじりじり近付いて来る。

 再びドアへ追い込まれて、逃げ場がなくなった。

「……椿……様?」

 頭の中で何度再生してみても、その言葉が引っかかって仕方ない。

 チッチッチと指を振りながら、安斎さんがお団子を揺らした。

「八城兄弟は、美男子兄弟ってことでこの辺りでは有名人だよ。お近づきになりたいって子、多いんだよ」

「そうそう。うちらもずっと狙ってたんですよね〜」

 なんて人たちなの。わたしを利用して、椿くんに近づこうとしていたなんて。
 そのために助けてくれたのだとしたら、恐ろしい。
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