八城兄弟は僕(=わたし)を愛でたい!
「知ってる。どうしたらほんとの碧に戻る?」

「すごくドキドキ……したりとか」

 さらりと落ちてきた遅れ髪を、椿くんの指先が耳へと誘導する。目が触れ合って、キレイな唇がゆっくりと近づく。

 心臓の音が大きくなって、弾けてしまいそう。このままじゃ、わたし……。

 動けなかった手を前に出して、椿くんの胸をぐっと押し離した。

「ま、待って。こうゆうの、よくないよ」

「なんで?」

 学校ではクールで無愛想で、女の子すら寄せ付けない印象だった。誰にでもしているとは思えない。

 でも、椿くん。わたしのこと好きなわけじゃないでしょ?
 こんなことされたら、余計に意識しちゃうよ。

「碧がイヤなら、しないけど」

「イヤって言うか……」

 心拍数が上がってきてる。

 掴まれている手首とか、熱を帯びた空気とか。全てが知らないものばかりで、どうしたらいいのか分からない。

「……好きな子とじゃなきゃ、こんなことしちゃダメだよ。椿くんは……もっと真面目な人だと、思ってた」

 口から出た言葉に、ハッとして顔を上げた。

 言うつもりなんてなかったのに、今さら唇をふさいでも意味がない。

 手首から、温もりが崩れ落ちるように離れた。

「……俺のこと何も知らないくせに。知った口聞くなよ」

 静かに部屋を出て行く椿くんは、少しだけ寂しそうな目をしていた気がする。
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