八城兄弟は僕(=わたし)を愛でたい!
***

「昨日は、ごめん。言いすぎたって言うか、ほんとはあんなこと……思ってないから」

 いつもと変わらない放課後。椿くんを裏庭に呼び出して、頭を下げた。黙ったままの椿くんは、まだ機嫌が悪そうだ。

 立ち去ろうとする腕をそっと掴んで、小さく息を吸う。

「あのあとから……ずっと、椿くんが頭から離れなくて。たぶん、好……」

 ここで後ろから抱きついて、雨に濡れた子犬のような眼差しをーー。


「あ、あの、なんなんですかこれ⁈」

 居ても立っても居られなくて、椿くんの背中から遠ざかった。

 あと一歩踏み出していたら、完全に密着していたであろう距離。


「はい、カーット!」

 教科書を丸めたものを振り上げながら、安斎さんが高らかに声を発する。

「三葉くん、そこはちゃんと台本通りにやってくれないと。まだまだシーンは山積みにあるんだぞ」

 そうそうと、隣で矢野さんが深くうなずいた。

 例のモデルを引き受けたはいいものの、なにやら訳のわからないことに付き合わされている。

「じゃ、次は抱きついてからのキス寸止めいってみよう」

「みましょ〜!」

「ちょ、ちょっとストップ! これって、漫画描くための参考にって話だったよね?」
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