八城兄弟は僕(=わたし)を愛でたい!
「そうだけど?」

「男同士の友情……とか言ってなかった?」

 あきらかにラブストーリーのシチュエーションだ。

 それに、絵を描くのならセリフを言う必要はないのでは?

 腕組みをしながら、安斎さんがわかってないなとチッチッチと人差し指を立てる。

「ええ、もちろん。ずばりテーマは、男同士の熱い友情から始まる恋の物語」

「可愛くて初々しい×クールで素っ気ないカップリング。このストーリーにベストマッチです」

 近くに生えている三つ葉のクローバーをちぎって、矢野さんがにこりと微笑む。

 そんなの聞いてないよ。

 悲痛な眼差しを送ってみるけど、椿くんは校舎に背を預けて落ち着いた表情をしている。興味がなさそうと言った方が、正しいのかもしれない。

「安斎さんと矢野さんって時点で、なんとなく予想はついてた」

 だったら、協力するかもっと真剣に考えたのに。

「さっ、観念して。漫画が完成したら、一番に見れる特権あげるよん」

「アイちゃんの画力は神ですよ、神!」

 キャッキャと楽しそうな彼女たちを見て、羨ましさが少し湧き上がる。

 前の学校では、当たり障りない会話をするだけで、特定の仲がいい子はいなかった。
 こんなふうに、自分の好きなものをオープンにしたり、共有できる人がいるって素敵だな。

 微笑ましく見ていたら、隣にいた椿くんがなんの前触れもなく顔を重ねてきた。
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