八城兄弟は僕(=わたし)を愛でたい!
 仕事で海外へ行くことが決まって、二人が先にアメリカで住むことになった。

 向こうで生活するための環境が整うまでの三ヶ月、わたしは日本に残る。
 たった三ヶ月かもしれないけど、不安だ。

「……そうねぇ。でも、これって好都合かもしれないわよ」

 のん気なことを言うお母さんに、どうゆう意味かと問いかける。

「正直、心配ではあったのよ。お父さんの急なアメリカ出向が決まってから。ほら、親戚って言っても、会ったこともないとおーいでしょう? 女の子一人で預けるのに、少し抵抗あったのよねぇ」

 スーツケースに衣服を詰め込みながら、お母さんが安心したような声を出す。

 いやいや、待って。この状況に動じない親がいることに驚いている。
 娘が息子になっちゃったんだよ?

 それなのに、お父さんを一人で行かせるのは不安だからって、中二のわたしより心配されているのもどうかと思う。
 たしかにと、うなずいてしまったけど。

「男の子として居候させてもらえるなら、お父さんも心置きなく旅立てるよ。あっ、もちろん飛行機でってことだぞ」



 ははっと笑う優しくて少し頼りない顔を、親戚の家の玄関を踏み入れた今、思い出した。

「……ほんとに来た」

 どうぞと言われて開けたドアが、バタンと大きな音を立てる。

 黒い髪から滴る水。ほどよく引き締まった体を隠すのはタオルのみ。男子が、上半身裸で立っていた。

「(は……は……、ハダカーー⁉︎)」

 悲鳴と共に、持っていた荷物を落としたことは言うまでもない。
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