八城兄弟は僕(=わたし)を愛でたい!
 慌てて口を押さえるけど、その男子はボストンバックを拾うと、無表情のままわたしに顔を近づけた。

 髪はボブだから、見ためは可愛らしい男子になっているはずだけど。
 顔や身長、声は女子の時そのままなのだ。

 声はわりと中性的な方でも、今の叫び声で奇妙な奴だと思われたかもしれない。

 じろじろと見つめてくるから、視線をそらした。

 ううっ、雑誌や漫画くらいでしか拝見したことのない男子の生肌。目のやり場に困る。

「……かわいい」

「は、はい?」

 思わず顔を見て聞き返してしまった。
 今、とんでもないセリフが聞こえたような……空耳かな?

 長いまつ毛からのぞくガラス玉のような瞳。一六〇センチのわたしより、十センチ以上は高いだろう背丈。

 よくよく見ても、モデルさんみたいにキレイな顔をしている。

「あんたの名前、なんだっけ」

 ぽわんと見惚れていた目がハッと開く。
 これからお世話になるのに、名乗ることを忘れるなんて。

「あっ、わ、僕は、三葉(みつば)……」

 言いかけたところで、二階から誰かが駆け降りて来る音がした。


「ーーうっるさ。なんだよ、さっきの声」

 ふわっとした茶色の髪。猫目と八重歯が特徴的な男の子が、じろりとわたしをにらむように見る。

「だれ?」

「えっと、申し遅れました。僕、今日からお世話になります、三葉碧(みつばあおい)……です。よ、よろしくお願いします」

 軽く頭を下げると、また新しい声が降って来た。
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