八城兄弟は僕(=わたし)を愛でたい!
「今日はありがとう。藍、久しぶりに笑ってた」

 目が合って、ドッと心音の波に襲われる。

 手を引っ込めようとしても、さらに強く捉えられた。

「う、うん。僕も、嬉しかった」

 机の下だから、二人には見えていない。

 でも、いつ気付かれるか分からないし、なりよりドキドキして戻ってしまわないか……。

 ーー椿ってさ、まだあのこと引きずってんでしょ。

 サッと手を引き抜いて、ひざの上に結び置く。

 イヤなことを思い出した。

 感じが悪いと思いながらも、わたしはそのまま冷蔵庫へ向かう。

 ケーキを運んで、みんなの前に取り分けた。
 不自然にならないように、さりげなく椿くんの斜め前に腰を下ろして距離を置く。

 なるべく目を合わせないようにして、歓迎会と誕生日パーティーは無事に幕を下ろした。


 外が薄暗くなった頃、それぞれが片付けを始める。
 洗い物をしていると、琥珀さんがお皿を運んで来た。

「手伝おうか?」

「そんなにないんで、だいじょ……」

 断りを聞くより先に、琥珀さんは隣に立って泡だらけのスープカップをすすぎ始める。

 部屋を見渡すけど、椿くんと藍くんの姿はない。

 二人きりになるなって言われたけど、家の中だし、遊んでいるわけじゃないからいいよね。
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