八城兄弟は僕(=わたし)を愛でたい!
「アオイくん、椿とケンカでもした?」

「……えっ⁉︎ そうゆうわけでは、ないですけど」

「途中から、あきらかに避けてたでしょ」

 なんでも見透かしているような口ぶりで、ゆるりと話す。
 のほほんとしていそうで、琥珀さんは意外と鋭い。

 当たり障りなく話題を変えるつもりが、先を越される。

「アオイくんってさ、椿のこと好きでしょ」

 とうとつな質問に、スポンジからグラスがズレ落ちた。
 もう片方でキャッチするけど、動揺はおさまらない。

「僕は、琥珀さんも藍くんも、みんな好きですよ。仲良くしたいって……思ってます」

「俺のことも? うれしいなぁ」

 ハハッと笑いながら、琥珀さんが泡のついた指を口元で立てる。

「じゃあ、特別にイイコト教えてあげようか」

「いいこと?」


「椿、好きな子いるよ。もう何年も前から」


 パリンと音がして、グラスが割れた。
 落とした拍子に、下の皿に当たったのだ。

「あっ、ごめんなさ……」

「触らないで。危ないから」

 制止されて、琥珀さんが破片を拾い集めるのを見ているしかなかった。

 わたし、なにやってるんだろう。
 椿くんが誰を好きだろうと関係ないのに。どうして手が震えるの。


「……すみませんでした」

 トゲのようにとがったグラスを袋へ入れて、琥珀さんがぽつりと。

「ダメだよ。やるなら徹底しないと」
< 41 / 160 >

この作品をシェア

pagetop