八城兄弟は僕(=わたし)を愛でたい!
 裏切り者の目で見られて、それこそヨコシマな気持ちで近づいたと勘違いされる。

 もう口すら聞いてもられないかもしれない。だって、わたしはみんなを騙してるのだから。

 ぶるぶると首を振って、パシンと頬を叩く。
 そんなのイヤ。なんとしても、隠し通さないと。

 教室へ入ると、いつものごとく、椿くんの周りは女子であふれていた。

 後ろであるわたしの席にまで侵食していて、座れない。

 かばんも置きたいし、早くどいてくれないかな。

 少し離れたところで待っていると、ガタンと音を立てて椿くんが立ち上がった。その音がけっこう大きくて、一瞬だけ教室が静まった。

 人の道を裂いて、わたしの前に来ると。

「碧、こっち」

 手を引いて、席まで誘導してくれた。

 女子たちがごめんとか、邪魔だったねと散っていく。
 特別扱いされているみたいで、胸の奥が熱くなる。

「……ありがと」

 わたし、おかしい。
 椿くんに触れられるとドキドキが止まらなくなって、変に意識しちゃう。

 ノートを引き出しに入れていると、振り向いた椿くんがくいくいと手招きする。

 なんだろうと顔を出したら、

「……かわいい」

 想像以上の近さで、耳元に甘いささやきが落ちてきた。
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