八城兄弟は僕(=わたし)を愛でたい!
 耳を押さえながら、瞬時に身を離す。
 まわりを気にしつつ、「な、なに言ってんの」と口パクしたら、椿くんの顔がぐっと近づいて。

「誰にも渡したくないから」

 まっすぐ見つめられて、心臓がバクバクと速まり出した。

 お願いだから、ドキドキさせないで。
 こんなところで心拍数が上がったら、女の子に戻ってバレちゃうよ。

 それに、椿くんは他に好きな子がいるんじゃないの?

 何年も前から。考えたら、冷静になっている自分がいて、心臓は落ち着きを取り戻しつつある。

「さっき呼び出されたの、なんだった?」

「えっ、穂村さん? よく……分かんなかった」

 気安く触らないでって、注意を受けたけど。結局、あれはなんだったんだろう。

「……俺のこと、言った?」

 ん? と首をかたむけると、椿くんは短いため息をひとつ落とした。

「付き合ってるって」

「い、言ってないよ。やっぱり、言うの? 今は、その……抵抗あるっていうか」

 誰かに聞かれたらでいいかなって。
 いろいろと複雑な気持ちが入り混ざっている。

 ひそひそと話していたら、まわりから男子の視線が刺さってきた。
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