八城兄弟は僕(=わたし)を愛でたい!
「アイツら、ちょっと距離近すぎない?」

「俺も前から思ってた。男同士で、きしょくわる」

「八城って女子に興味ないらしいし、デキてんじゃね」

 クスクスと笑い声に混じって、かすかに聞こえてくる。

 やっぱり、そう思われるのが普通の反応なんだ。
 わたしが思春期病になんかなったから、仲良くしてくれる椿くんを巻き込んでしまった。

 近付いていた体を離して、席を立つ。トイレへ閉じこもったまま、朝の休みを過ごした。

 授業中、昼休み、放課後も椿くんを避けるようにして四階へ上がる。

 だって、一緒にいたら、また陰口を言われそうだから。

 階段の途中で、爽やかなメロディが聴こえて来た。
 すぐ先にある音楽室から流れていて、ガラスの小窓からこそっとのぞいてみる。

 ピアノの前に座っているのは、子犬みたいなふわっとした茶髪。

「……藍くん?」

 普段見たことのない表情で、真剣な目をしている。藍くんって、ピアノが弾けるんだ。知らなかった。

 見入っていると、美しい音色がピタリと止まる。

「……なんか用? 盗み聞きとか悪趣味なんだけど」

 しっかりバレていた。

 小さくなりながらドアを開けると、ジロリとした視線が飛んできた。
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