八城兄弟は僕(=わたし)を愛でたい!
「なんだ、碧かよ」

 どうやら、わたしとは気づいていなかったらしい。

 バツが悪そうな顔をして、藍くんが楽譜(がくふ)を閉じた。

「ごめん、練習の邪魔しちゃった? もう帰るから、続けて」

 手を合わせて、ごめんポーズをする。

 小さく手を振って去ろうとするけど、呼び止められた。

「……あのさ、ちょっとだけ、聞いててもらっていい?」

 気恥ずかしそうに視線を下げながら、藍くんが再び楽譜を開く。

「……僕でいいの?」

「こんなの、誰にも頼めねぇし。碧の方が都合いいんだよ」

 開けたドアをそっと閉めて、わたしはこくんとうなずいた。

 何もない草原に、小鳥や動物たちが現れて、草や花も踊り出す。

 青空の下で眠るみたいに、あたたかい映像が目に浮かぶ。そんな優しい音色が音楽室を包み込んだ。

 最後の音が鳴り終えて、思わず拍手をする。

「すごい、藍くんすごいよ! 僕、感動しちゃった」

 こんな特技があったなんて知らなかった。

 興奮気味にかけ寄るわたしとは反対に、藍くんの表情はかたく感じる。
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