八城兄弟は僕(=わたし)を愛でたい!
「好きな子の写真入れてるっぽい」

「……え?」

 胸の奥がズシンと重くなって、空気が薄くなった気がする。

 そっか。椿くん、好きな人がいるんだった。

 素敵なことのはずなのに、どうしてこんなに気分がどんよりと落ちるんだろう。

「碧と付き合ってる設定にしたの、告白断るための口実だっけ? お前、なんか弱み握られてんじゃねぇの?」

「……そうゆうわけじゃ」

 楽譜を腕にはさんで、藍くんがとなりに立つ。

 わたしと似たような背丈、いたずらな表情も珀さんや椿くんとは違うけど。

「椿の弱点つかめるぜ。オレもちゃんと見たことないんだ。今度、一緒に見てやろうぜ」

 どことなく雰囲気が重なるのは、やっぱり兄弟だからだろう。

「そんなこと、よくないって」

 あまり顔を直視できずに答えたら、藍くんはのぞき込む素振りをして、つまらなそうに言う。

「なんだよ。碧は見たくねぇの?」

 ちらりと視線を交じり合わせると、期待した目で私を見返してきた。

 そんなのずるいよ。わたしだって、気にならないわけじゃない。

 椿くんの好きな人。怖いし、見たくないけど。

「……見たい、です」
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