八城兄弟は僕(=わたし)を愛でたい!
 狭い空間に、中学生がふたり。衣類やカバンがあるから、なおさらスペースはない。

 藍くんに倒れ込む形で、身動きが取れない。暗いし、近すぎるよ。

「なんだよ、椿。想像以上に戻るの早いんだけど」

 小さくチッと舌打ちをしてから、藍くんがじろりとこっちを向く。

「いつまでくっついてんだ。早くど・け!」

 隙間から見える椿くんを確認しつつ、空気のような声を出す。

 そんなこと言われても、動けないんだってば。
 ムリムリと首を振ると、あきれたようなため息が聞こえた。

 学生証も見つからなかったみたいで、藍くんは不機嫌そうだ。

 そんなことより、どうやってここから出よう。
 そもそも、今はわたしの部屋でもあるんだから、わたしは隠れなくてもよかったのに。

 巻き添えにした藍くん、理不尽すぎる。

 薄暗いことをいいことに、少しムッとした表情で見ていると、なにかポスッと頭に落ちてきた。

 な、なに⁉︎ まさかゴキブ……⁉︎

 悲鳴をあげたい思いを必死にこらえて、藍くんの腕にしがみつく。

 どこへ行った? 暗すぎて、よく分からない!

「……おい。痛てぇよ」

 耳元でささやくほどの声がして、ひいっと背をのけぞる。

「ご、ごめん」

 この暗闇と密着度合いは、いろんな意味で心臓に悪い。
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