八城兄弟は僕(=わたし)を愛でたい!
「碧、藍。ここでなにやってんの?」

 無表情だけど、声のトーンがいつもより低い。これは、完全に怒っている証だ。なにか理由を考えないと。

 頭の中が真っ白であたふたしていると、となりで立ち上がった藍くんが笑い出した。

「椿のことおどかそうと思って、隠れてたんだよ。なっ、碧」

 同意を求めながら、さりげなく学生証を隅の方へ追いやる。

 見事な証拠隠滅にうろたえながら、

「お、おう、そうそう!」

 怪しまれないように、なるべく会話を合わせた。

 演技が白々しすぎて、すでに見破られていそうだけど仕方ない。

「出るタイミング見誤ったな。部屋戻ろー」

 そそくさと出て行く背中に、薄情者と無言で訴える。この状況で二人きりにしないでよ。

「……碧」

「あっ、ぼ、僕もお風呂入っちゃおうかなぁ」

 逃げようとドアノブを握るけど、椿くんの左手に行手をはばまれた。

「ねえ、なんで碧ちゃんになってるの?」

 言われて確認してみたら、胸元に山がある。

 うそ、なんで⁉︎
 気が動転していて気づかなかったけど、女子の体のままだ。

「ほんとは藍となにしてた? あんな暗くて狭いクローゼットに、二人で」
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