八城兄弟は僕(=わたし)を愛でたい!
「ほんと、椿くんにドッキリかけようって、なって。それで……」

 続ける言葉が見つからない。

 ノブを持つ手に椿くんの指が重なって、離すよう誘導される。完全に逃げるタイミングを失った。

「まあいいや。可愛いから、許す」

 そのまま後ろから抱きしめられて、変な声が出た。

 ちょっ、ちょっと待ってよ。近すぎるというか、緊張して体が固まっている。

 それにーー。

「あ、あの、椿くんって」

 好きな人がいるんだよね?
 なのに、どうしてこんなことをするんだろう。

「なに?」

「な、なんでもないです」

 振り払うことができないわたしも、どうかしてる。

 触れられても、イヤじゃない。むしろ、胸の奥がギュッと苦しくなって、甘くとろけそうになる。

「ドキドキしたら、女の子に戻るんだっけ」

 小さくうなずくと、耳元で拗ねた声がした。

「だったら、ちょっと妬けるな。藍にドキドキしたの?」

「ち、違うよ! そうゆうんじゃなくて、椿くんに……バレないか、ハラハラして」

 しどろもどろと泳ぐ目が、くちびるでふさがれる。
 そっと離れた顔は、ほんのり赤くなっていた。

「俺のこと、キライ?」

 首を横に振って、視線を下げる。
 急激に恥ずかしさが込み上げてきて、まともに椿くんを見られない。

「じゃあ、もう少しだけ。碧ちゃん独占させて」

 ポスッと頭を奪われて、椿くんの胸へおさまった。

 ものすごい音で、鼓動が動いているのが聴こえる。
 ドク、ドク、ドク。ふたつ重なって響いているのが、心地よい。

 ああ、そっか。わたし、椿くんのことが好きなんだーー。
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