八城兄弟は僕(=わたし)を愛でたい!
戻らない!絶体絶命の大ピンチ
 そわそわとまわりを確認しながら、教室へ入る。かばんで前を隠したまま、足早に席へ着いた。

 おはようと挨拶しながら、唇はやや引きつっている気がする。

 大丈夫。誰も気にしてない。

 机に伏せようとした時、背後から男子たちが集まってきた。

「おい、三葉。お前、あの噂ってほんとかよ?」

 やたらヘラヘラして、三人はわたしを取り囲む。クラスでも目立つ存在の彼らは、無神経なところがあるから少し苦手。

「なんのこと?」

 背を丸めて小さくなりながら答えると、別の男子が肩にさわった。

「だから、アレだよ、アレ。八城椿と付き合ってるってやつ」

 はっきりと公言したわけじゃないけど、どこかからもれた噂が、学校中に広まっているらしい。

 椿くんは、みんなに知られてもいいと言っていたけど。やっぱり、まだ抵抗はある。

「……それは」

「で、どっちが女役なんだよ。八城だったら面白いよな」

 バカにした口調で、三人は笑い合っている。

 ーー何かあったとき、碧のこと守りやすいと思うから。

 いつだって、椿くんは優しい言葉で包み込んでくれる。困っていたら、助けてくれる。

 わたしは、ほんとは女子だけど、たとえ男子として生まれていても、椿くんを好きになっていたと思う。

 男同士が恋してたら、そんなにおかしい?

「そんな言い方……ないだろ。いい加減に」
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