八城兄弟は僕(=わたし)を愛でたい!
「大人組の琥珀様と椿様。可愛い組の藍様と三葉くん。このカップリング、お姉さまたちになかなか人気あるんだよねー」

「そうそう。ほっぺハグとか、バックハグしてとか、希望のシチュエーションはいっぱいありますよ〜」

 キャッキャと盛り上がっているところに、低い声がぽつりと落ちる。

「高等部へ行く」

「えっ、椿くん⁉︎」

「みんなで撮る。二人はなしだ」

 目の光がない。いつもの冷静な椿くんじゃない。

「よしキタ! んじゃ、まいりましょうか!」

 彼女たちの掛け声に、藍くんがため息をついた。

 うそでしょ……⁉︎ わたし、まだ女子のままなのに。

 顔からサーッと血の気が引いて行ったのは、言うまでもない。


***

「ほんとに、ダメだって。やめようよ」

 隣の敷地へ足を踏み入れて、引き腰のわたしの腕を安斎さんがぐいぐいと引く。

 八城兄弟は琥珀さんがいるからいいとして、問題はわたしたち。

 部外者は立ち入り禁止されているのはもちろんのこと、高等部には規則にうるさい風紀委員がいるのだ。とんでもなくバイオレンスだと聞いている。

 侵入どころか、万が一わたしが女子だと知られたら、退学もあり得なくはない。

 ぶるんぶるんと首を振って、もう一度彼女たちを止めようとした。が、いない! もう裏口の門を開けて、オッケーの合図を送っている。

「あの人たち、大丈夫か? 罰則とかされねーかな」

 不安げにしながら、藍くんがぽつりとつぶやいた。半ば丸め込まれた感じの椿くんは、無言を続けている。

 聞く耳を持たない彼女たちを、今からでも止めないと。

「あ、安斎さん、矢野さん。やっぱり、帰った方が……」

「あなたたち、こんなところで何をしてるの?」
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