八城兄弟は僕(=わたし)を愛でたい!
「……そ、その、今はダメだっ!」

「男同士なのに、恥ずかしいの? 碧は可愛いなぁ」

 細くなっていた椿くんの目が、フッとやわらかくなる。
 挑発するような声に、心臓がおかしくなりそう。

「(そうじゃなくて、今は女子に戻ってるんだってばぁ)」

 なんとか胸を落ち着かせるけど、しばらく男子になりそうにない。

 そっと伸びてきた指が、わたしの手に重なった。

「……穂村さんと、手をつながない」

 キレイな瞳にまっすぐ見つめられて、動けなくなる。

「腕も組まない」

 少しずつ距離が縮まって、十センチほどのところで止まった。

「必要以上に顔も近づけない」

 そのまま、耳元のすぐそばで声がする。

「約束して」

 真っ赤になる耳を押さえて、わたしはこくんとうなずいた。
 普通に話してほしい。こんなの心臓がもたないよ。

「設定上は、俺と付き合ってるんだから。碧は、もっと自覚して」

 ポンッと頭をなでられて、胸の奥がキュンとなる。

「……はい」

 くしゃくしゃと髪を混ぜられて、ボサボサになった顔を見て椿くんが笑った。
 この優しい笑顔を、独り占めしたい。そんな感情がわいて、ふと思う。

 さっきの椿くんが、同じ気持ちだったならいいのになって。
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