八城兄弟は僕(=わたし)を愛でたい!
「ああ、なるほど! みや……ちゃん。で、いいかな?」

 一瞬、穂村さんが驚いたような目をした。

「う、うん。碧くんって、呼んでいい?」

「了解! なんか照れるね」

 ハハッと笑ったら、顔をそむけられた。

 あれ? 気にさわるようなことでも、言っちゃったかな。
 ショッピングモールへ着くまで、穂村さんは黙ったままだった。

 バスを降りて映画館へ向かうと、入り口に二人組の男女が立っていた。こっちを見て、女の子が手を振ったから穂村さんの友達だろう。

「ーー⁉︎」

 さりげなく、腕をつかまれた。跳ねのけるわけにもいかないから、そのままにしていると。

「今だけ、許して」

 消えそうな声が、助けを求めているみたいで、胸が苦しくなった。

 キャスケットを被っている女の子が、顔を上げる。茶色の長い髪を、ふわっとさせてニコッと笑った。

「みやの友達の芹奈(せりな)だよ。こっちは、カレシの秋斗(あきと)

「どうも〜」

 声を聞いた瞬間、全身の血の気が引いていく。

 待って、この子……間違いない。
 前に同じ小学校だった、遠野(とおの)芹奈さんだ!

 髪が伸びてメイクをしてるから、気づかなかった。
 こんな偶然があるのかと驚いたけど、おびえている場合じゃない。これは、とてもマズイ状況だ。

「彼はあお……」
< 88 / 160 >

この作品をシェア

pagetop