八城兄弟は僕(=わたし)を愛でたい!
「あ、ああ……! ミツバです!」

 さえぎるように、穂村さんの言葉にあわててかぶせる。

 苗字ならまだしも、この顔で碧という名はおしまいだ。


 ーー三葉碧って、なんで先生のお気に入りなんだろ。全然可愛くないのにね。

 ーー頭だって普通だし。ウザッ、ていうかキモ。


 たとえ、六年生の一年だけだったと言っても、覚えているはず。ほんとは女子だとバレてしまう。

 前髪をくしゃっと下ろして、なるべく目元を隠した。

「ミツバくんね! よろしく〜!」

 はじけるようなソーダーみたいな声。やっぱり、遠野さんだ。
 怪しまれないように、大人しくしていよう。

 チケットを発券して、ポップコーンとジュースを選ぶ。となりでは、遠野さんカップルが仲むつまじくチュロスを買っていた。

 彼氏がお金を払っている。
 わたしも、おごった方がいいよね?

「えっと、ほむ、みやちゃん。僕が出すよ」

 財布からお金を取り出そうとしたら、スマホをいじっていた穂村さんが一歩前へ出た。

「いいよ。私も払う」

「で、でも、なんかあっちは彼氏が」

「いいって言ってるじゃん。三葉っちは、黙ってて」

 少しムッとした口調で、店員さんにスマホ画面を見せる。そのまま、穂村さんの電子マネーで払わせてしまった。

「ごめん。あとで、ちゃんと返すから」

 入場ゲートの前で話しかけたけど、「ちょっと、トイレ」と遠野さんを連れて行ってしまった。
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