八城兄弟は僕(=わたし)を愛でたい!
 どうしよう。完全に怒ってる。
 もしかして、わたしがトロいから、嫌気がさしてきたのかな。

 今ごろ、二人で何を話しているんだろう。

 気づかれていないことを祈っていると、遠野さんの彼氏がわたしの横に立った。

「ケンカ?」

「えっ、いや……」

 ガムを噛みながら、ニマニマとしている。
 明るめの髪とチャラついた格好。いかにも遠野さんが好みそうなタイプだ。

「女子なんてさ、ちょっと大げさに褒めたり、おごってやれば機嫌よくなるんだから。今日もめんどくせーけど、テキトーに合わせとけって」

 最低。
 うなずきたくなくて、なるべく目を合わせないようにする。

「そしたら、キスくらいさせてくれるかもよ」

 近くでささやかれ、ゾッとした。もはや、不愉快のレベル。
 声もしぐさも、考え方すべてが受け付けない。

「あなたと一緒にしないでください」

「はあ?」

「女の子をなんだと思ってるの」

 言い終わってから、サーッと顔が青ざめていく。男子の顔があきらかに不機嫌だ。

 やってしまった。波風立てず、おだやかに乗り切るつもりだったのに。

 穂村さんたちが戻ってきて、変な空気のまま場内へ入った。
 あの人とは端同士の席になったから、とりあえず息ができる。

「なにかあった?」

 薄暗い中、穂村さんが顔を寄せた。まわりに聞こえないようにだろう。

「つらそうな顔してる」

 上目づかいが、いつもより可愛く見えた。
 少なくとも今日は、ウソカレであるわたしのためにもオシャレをしてくれている。

 そんな健気な女の子を、わたしは騙している。
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