八城兄弟は僕(=わたし)を愛でたい!
 一歩踏み出せば、ショッピングモールから逃げ出せる。

 自動ドアが開いて、ゆっくり閉じた。

 今帰ったら、わたしは穂村さんを裏切ったことになる。

「ああー、そういえば、さっき言ってたな。今日もめんどくさいけど、テキトーに合わせて来たって」

 遠野さんの彼氏が、わざとらしく笑う。

「それは……!」

 あなたが言ったことでしょう⁉︎

 開けた口が、小さくなっていく。
 正直に話したら、遠野さんが傷つくかもしれない。信じてもらえなくて、余計にギスギスしてしまうかもしれない。

「うわ、サイテーじゃん。みや、やめときなよこんな男。女子を物としか思ってないよ」

 冷たい声が、グサグサとわたしの体にささっていく。

 どうしたらいい?
 頼ってもらえて、嬉しかった。力になりたいと思った。
 どう伝えたら、穂村さんにわかってもらえるの。

「僕は……ほんとに」

「もういいよ。三葉っち」

 浮かない顔の穂村さんが、キュッとくちびるをかみしめる。今にも泣きそうな目。

 違う、違うのに。わたしは、穂村さんを助けたくて……。

「三葉っちは、友達だよ。私のために、今日付き合ってくれただけ。芹奈、嘘ついてごめん」

 その場がシーンとなって、一瞬だけみんなの時間が止まった。

 自動ドアが開いて、冷たい風が吹いてくる。

「でも、三葉っちはそんなこと言わない。だから、ウソツキはそっちもだよ」

 少し力強くなる声に、遠野さんの表情が険しくなった。

「秋斗、さっきの話……嘘なの?」
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