八城兄弟は僕(=わたし)を愛でたい!
「はあ? めんどくせー。ダブルデートとか、楽しいの女子だけだろ。恋愛映画だって、別に見たくねーの。オレはアクションの方が好きだからな」

 開き直ったのか、彼氏は吐き捨てるような発言を繰り返している。

「もともと、キスできるから仕方なく付き合ってるだけだし」

「ひど……ありえないんだけど。サイテー、サイテー!」

「うるせーな!」

 怒りが沸騰したように、遠野さんが手を振り上げた。

 それは、ダメ!
 とっさに止めようと前へ出たら、彼女のひじが頬に当たって、後ろへ倒れそうになる。

 足の力が抜けてて、踏ん張れない!

 そのとき、後ろから誰かに支えられて、尻もちをつかずにすんだ。

 お礼を言おうと振りかえると、メガネをかけた背の高い男子が立っていた。となりでは、茶髪のボブカットの女の子が青ざめた顔をしている。

「……椿くん? と藍くん?」

 きょとんとするわたしと、穂村さん。

 変装が見破られ、藍くんが荒っぽくウィッグをつかんだ。

「だから、オレはいやだって言ったんだ」

 恥ずかしそうにしながら、声を押し殺している。

 どうしてここにいるのか。まだ状況を把握できていないけど、顔を見てホッとした。

「あとは二人の問題。帰ろう」

 椿くんに手を引かれて、その場を去ろうとしたとき。

「……待って」
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