八城兄弟は僕(=わたし)を愛でたい!
「…………え?」

 反応するのに、三秒ほどかかった。
 聞き間違いじゃないよね?

「珀は父さんと会社のパーティー。藍は友達の家に泊まり行った」

「パーティーって、夜まで……だよね?」

 目をパチパチさせながら、壊れた人形みたいにギギギと首をかしげる。

「帰って来れるの、朝方だと思うけど」

 ひとまず深呼吸をして、今朝の様子を思い返してみた。
 たしかに、琥珀さんはスーツ姿で出かけて行った。いつも荷物を持ち歩かない藍くんも、リュックを背負っていた気がする。

 これって、もしかしなくても……。

「この家、今日は俺と碧しかいないよ」

 八城家へ居候し始めて、初めて二人きりの夜を明かすことになりそうです。


 食事の味はあいまいで、皿洗いもガシャンガシャンと動揺しまくり。椿くんが手伝ってくれなかったら、今ごろまだ服をびしょびしょにしながらやっていただろう。

 ついさっきまでどう話していたのか、忘れてしまったみたい。
 二人きりだと知った瞬間から、変な意識が入り込んで、普通の行動ができなくなっている。

 部屋へ戻っていようかな。
 昨日からルームシェアを解消して、わたしは別の部屋を借りている。

 椿くんは、一緒のままで構わないと反対していたけど、琥珀さんがダメの一点張りだった。
 時間を見つけて少しずつ片付けてくれたのに、使わないのも失礼だと思って。

「碧、少し付き合って」

 ソファーに座る椿くんが、アメゾンビデオのリモコンを持ちながら微笑んだ。
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