八城兄弟は僕(=わたし)を愛でたい!
 せっかくだから、映画でも見ようと誘ってくれたのだけど……。なんだか嫌な予感がする。

『キャー、来ないで! 誰か助けて!』
『逃げろー!』

 さっきから、高校生らしき人たちが叫んでる。

 手で顔を隠しながら、指の間からチラリと見てはすぐに目を閉じる。

「なにこれ……」

「少し前、話題になった【悪魔払いの屋敷】だよ」

『ウオォォォーー!』
『キャーッ!』

「キャーーッ!」

 目をつむったまま椿くんの方へ体をよじると、泣きそうな声を出した。

「僕、ホラーはダメなんだ。ほんと無理です」

 ガタガタと肩を震わせながら、さっきからほとんど目を開けれていない。

「アカデミート賞にノミネートされたやつだよ」

 ケロッとした声の椿くん。
 今回だけは、優しく笑って話せる気がしない。

 映像どころか、セリフすら恐怖で聞けない。もう限界です。

「……ごめん、二階行くね」

 待ってと聞こえたけど、そのまま立ち去ってしまった。

 悪魔だ。あんな恐ろしいものを見るなんて、さっきの椿くんは悪魔に思えた。

 早めにお風呂へ入って寝よう。パジャマを用意して、脱衣所で気づく。ある意味心臓がバクバクしていたから、いつの間にか女子の体へ戻っている。

 すばやく湯船につかって、超特急で頭と体を洗って出た。
 誰かいる気がして、うしろが気になって仕方なかった。ものすごく怖かった。

 モンスターパワーで髪を乾かしてから、リビングをそっとのぞいてみる。
 眠ってしまった椿くんが、ソファーで横になっていた。
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