八城兄弟は僕(=わたし)を愛でたい!

 テレビは砂嵐になっていて、ザーザーと音を立てている。
 こんな現象は初めて見た。なんだか不気味だ。

 テレビを消そうとしたとき、恐ろしい声がして、ビクッとなる。突然暗かった画面が変わって、髪の長い女の人がこっちへ向かって来た。

「ひっ、ギャァーーッ!」

 持っていたリモコンを投げ捨てて、寝ている椿くんの背中へ飛び付く。

「ごめんなさい! 助けて、もうしません……!」

 しがみついた背中から、「大丈夫?」とおだやかな声がした。

「ほら、まだ映画の続きだよ」

 おそるおそる顔を上げると、さっきの高校生たちが映っていた。

「とうとう、幽霊見ちゃったかと……」

 一気に力が抜けて、ヘナヘナと体が倒れていく。
 映画でホッとしたのと、あの映像の衝撃が残っていて、まだ心臓の音がドクドクと早い。

「怖がらせて、ごめん」

 頭をなでられて、ハッとする。
 しっかりと服をつかみ、横向きの椿くんに抱き着いたままだ。

 密着して、体を押し当てた状態になっている。

「心臓の音、すごいね」

「ごめん! 怖すぎて、とっさに」

 離れながら、ちゃっかり胸元をガードするわたしに、椿くんがほんのりと頬を染めた。

「ホラー好きだったら、一緒に楽しめるし。もし怖いなら……くっついてくれるかなって思って」

 でもごめんともう一度謝ってから、椿くんがわたしの乱れた髪を直す。
 じっと見つめながら、少し照れくさそうにして。

「碧ちゃんと、過ごしたかった」

 わたしたち以外、誰もいない家。いつもなら、女子に戻った体を隠さなければならない。
 でも、今日は本当のわたしを知る椿くんしかいない。

 ありのままの姿で、一緒にいられるんだ。
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