魅了たれ流しの聖女は、ワンコな従者と添い遂げたい。

プロローグ

「エブリア・ケルヴィン! 貴様との婚約を破棄する!」
「あら、それはどういった理由でしょうか?」

 王太子殿下の鋭い声が廊下まで響いてきた。
 それに対して、ゆったりとかまえたようなエブリア様の声も。
 優雅に扇子をあおいでいらっしゃる姿も目に浮かぶ。
 この状況でこんなに落ち着いていられるなんて、さすがエブリア様だわ。

「そんなの決まっている。聖女を拐かした罪だ。アイリはどこにいる!?」

(あぁ、なんとか間に合ったわ!)

 私を抱えて走っていたカイルに下ろしてもらい、扉を開け放った。

「ここにおります!」
 
 卒業パーティーに集まった人々の視線が私に集まった。
 
(怖い。やっぱりこれは私のキャラじゃなかったわ)

 私はカイルのしなやかな体躯の影に隠れた。
 これで安心。この愛しい人の背中に守られていれば。

 私は力を溜めると、口を開いた。
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