魅了たれ流しの聖女は、ワンコな従者と添い遂げたい。
「話は変わりますが、エブリア様、私の魅了魔法の止め方を調べられないでしょうか?」

 すべての元凶は私の魅了魔法みたいだ。護符をお渡しするより、それを止めた方がいい。
 魅了が止められたら、私も心穏やかに日常を送れるし、できるなら早く止めたい。

「今、専門家に調べさせているの。普通だったら魔法を垂れ流すなんて、すぐ魔力が尽きてできないはずなのよね。でも、あなたは聖女だから違うみたい。オランの師匠にも手紙を書いて確かめているわ。手がかりがあったら、教えるわね」
「ありがとうございます!」

 お礼を言った私にエブリア様はなにか差し出した。

「それと、これを持ってみて」

 なにか透明の球が嵌ったペンのようなものだった。
 よくわからないまま受け取ると──

 パンッ

 透明部分が破裂するように割れてしまった。

「あ〜あ、これ高いのよ……」

 そんなことを言いながら、残念そうなというより納得したような表情で、エブリア様は扇子をあおいだ。

「も、申し訳ございません!」
「まぁ、予想はしていたからいいの。それは術者の魔法を抑える魔具なんだけど、あなたの魔法出力の方が大きすぎて壊れちゃったみたい」

 オランがささっと寄ってきて、壊れた魔具と破片を回収した。

「やっぱり、あなたの意志で魅了魔法を止めないとどうしようもないかもしれないわね」
「そうですか……」

 エブリア様との話はそれで終わって、私は王宮の自室に戻った。



「私が悪いのかな……?」

 ソファーに座って、横に座らせたカイルにしがみついた。
 この頃、落ち込むことが多くて、よくこうしてカイルになぐさめてもらっているかも。
 カイルに触れていると落ち着く。寝るときのモフモフもいいけど、今はこの広い胸に包まれているのが心地いい。顔を擦りつけて、カイルのお陽さまのような匂いをスンスン嗅ぐ。
 彼は平静な顔で、私の髪をなでてくれた。

「アイリ様が悪いわけじゃありませんよ。王族に関してはなにか悪い意思が働いている気がします」

 カイルは言葉は少ないものの、的確に私をなぐさめてくれるし、信じてくれている。
 それでも、私のあずかり知らないところで、不穏さが増していくようで、不安だった。

「なんだか怖いわ」
「俺が必ず守ります」
 
 すがりつく私に、カイルはそんなことを言ってくれる。うれしくて、微笑んだ。
 彼がいれば勇気が出る。

「明日、殿下に護符をお渡しするわね!」

 自分を鼓舞するように、宣言した。




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