魅了たれ流しの聖女は、ワンコな従者と添い遂げたい。
*−*−*


 翌日の昼休み、勇気を出して、王太子殿下の教室に行った。やっぱり今日もカイルの袖は離せない。
 戸口から覗くと、王太子殿下と目が合ったのに、今日は無反応で来てくださらなかった。
 エブリア様がおっしゃったように、魅了状態でもないみたい。
 でも、側近の方々が気づいて手招きしてくれた。

「アイリだ。どうしたの?」

 かわいい担当のマルト様がにこやかに声をかけてくれる。
 私が近寄ると、王太子殿下の瞳に熱がこもってきた。

(あら? 側近の方が増えてる)

 見慣れない浅黒い肌のエキゾチックなハンサムさんがいた。この方はミステリアス担当かしら。
 王太子殿下の側近の方は、本当にバリエーション豊かだわ。

「王太子殿下に、少しお時間をいただきたくて」
「今か?」

 殿下がうれしそうに聞き返された。

「はい、よろしければ、二人でお話ししたいのですが」
「良いわけないでしょう!」

 ミステリアス様が諌めてきたけど、殿下は鷹揚に「いいではないか」と私に付き合って、中庭に出てくれた。
 もう魅了されてしまったらしい。
 ということは昨日お渡しした護符は持っていらっしゃらないのかしら?

 王立学校の中庭は、癒やしの空間だった。
 美しく刈り込まれた植栽の緑は目に優しく、常に満開に保ってある花々は甘くさわやかな香りを放っている。噴水からチョロチョロと流れ落ちる水音も耳に心地よい。
 広々としているので、中庭に出ている人はいるのだろうけれど、人影は見えない。

 殿下にエブリア様から預かってきた護符を再びお渡しすると、すーっと表情が抜け落ちた。

(魅了が解けたみたい)

 でも、昨日の反応とまったく違う。
 人気がないのを再度確認して、すかさず浄化魔法を放った。

「浄化!」

 すると、王太子殿下の瞳に光が戻る。
 でも、すぐ頭痛がするように頭を抱えられた。

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