魅了たれ流しの聖女は、ワンコな従者と添い遂げたい。
「カイル、ベッドで休んで。怪我は冷やした方がいいのかしら? あ、お水、飲む?」

 まだ涙目のアイリ様が甲斐甲斐しく世話を焼こうとしてくださる。
 かわいい。天使がここにいる。

「アイリ様、俺は大丈夫です。ただ、獣化していいですか? その方が治りが早いので」
「もちろんよ!」

 痛みで行動に制限が出てしまうのは避けたい。
 俺はアイリ様に断ると、洗面所に行って、服を脱いだ。
 やはり痛いだけあって、あちこちに痣が浮かんでいる。
 俺は犬の姿になって、アイリ様のもとに戻ると、床で丸まった。

「カイル、ベッドを使ってって言ったでしょ?」
「クゥン……」

 主人を差し置いて、ひとりでベッドを使うわけにはいかない。
 すると、俺の躊躇を察して、アイリ様はベッドにあがり、ポンポンと横を叩いた。

「おいで」

(うぉぉぉ、かわいい!!!)

 かわいらしい誘惑に抗えず、俺はぴょんとベッドに飛び乗った。
 すると、なんとなんと、アイリ様がひざ枕をしてくれた。
 アイリ様の甘く濃厚な匂いが鼻を直撃して、鼻血が出そうだ。

(アイリ様、う、うれしいけど、これでは気が休まりません!!!)

 しかも、ゆっくりと耳の後ろをなでられて、心地よさが半端ない。
 喜びに打ち震えていると、ぽたりと水滴が降ってきた。

「ごめんね。怖かったね……」

 静かに泣いているアイリ様を見て、気がついた。
 突然の父親の豹変に驚き、嘆き、動揺しているようだ。
 考えたら、アイリ様は暴力がふるわれる場に居合わせたことはない。
 心を痛め、恐怖に駆られるのも無理はない。

 なぐさめたくて、俺は頭を起こし、その綺麗な涙を舐めた。
 一瞬、驚いたあと、アイリ様が微笑まれたので、俺は調子にのって、頬をペロペロ舐めた。

「ふふふっ、カイルってば、くすぐったい」

 アイリ様が無邪気に笑うから、だんだん遠慮がなくなってきて、顔中を舐め回してしまった。どさくさに紛れて、かわいい唇をぺろりと舐めてしまったのは、気づかれてないよな?




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