魅了たれ流しの聖女は、ワンコな従者と添い遂げたい。
「でも、今度、王立学校に編入でしょ? 私が聖女なんて信じられないわ。ちゃんとやれるかしら?」

 暗い顔でアイリ様がつぶやいた。

 そうだった。俺のお嬢様は先日十八歳の誕生日に『浄化魔法』を発現されて、聖女となった。さすがアイリ様だ。やっぱり天使だった。いや、聖女様か。
 浄化魔法は、毒、疫病、呪い、その他、人の精神にマイナスするようなものを消し去るらしい。
 聖女しか持たない特別な能力で、保護する、つまり王国に囲い込むために、アイリ様は王宮に部屋を与えられて、王立学校に編入することになったのだ。
 今後、同級生である王太子を始め、王族の面々とやり取りがあるということで、平凡に暮らしたいと望むアイリ様の希望とはうらはらに、きらびやかな生活を送ることになってしまった。

 平和な今、とりたてて聖女の仕事があるわけではない。ただし、戦時となれば相手の精神攻撃や毒攻撃に備えなければならないし、疫病が蔓延したときにも浄化できるように、聖女を教育しておかないといけないという。

(お気の毒なアイリ様)

 聖女と持ち上げられても負担の方が多くなりそうだ。
 そう思ったものの、不安そうなアイリ様を勇気づけるように言った。

「アイリ様なら大丈夫です」
「そうかな? カイルがついてきてくれるのだけが頼りだわ」

(キューーーン。もちろんです! カイルはどこまでもついていきます!)

「もったいないお言葉です」

 テンションが上がりまくりな俺は、顔は平静に、そう返すしかできなかった。
 もちろん、王宮にも学校にも俺は付き従っていくことになっている。
 聖女だということで群がってきそうな有象無象からアイリ様をお守りしなくては!
 固い決意とともに拳を握りしめた。

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