魅了たれ流しの聖女は、ワンコな従者と添い遂げたい。

頑張ってみるわ!

 部屋に二人きりになると、エブリア様が私の横に来た。

「彼なんでしょ?」

 そう言うエブリア様は目をキラキラさせている。もしかして、恋バナ好き?
 秘密の恋だったし、誰にも言うつもりはなかったけれど、もし望みがあるのなら聞いておきたい。
 私は思い切って打ち明けた。

「そうです。カイルなんです」
「きゃあ、主従の禁断の恋! 素敵!」
「エブリア様! 声を落としてください!」

 興奮するエブリア様を慌てて止めた。
 本当に見た目と違って、お茶目な方だわ。

「あら、失礼」

 扇子で口もとを隠して、エブリア様は座り直した。

「でも、平民なので、なんともならないと思って……」
「ばかね。なるわよ?」

 こともなげに言われて、その自信満々のお顔を凝視した。

「本当ですか!?」

 思わず、にじり寄る。
 私の勢いに、エブリア様が後ずさった。

「じ、実績をあげた聖女が望むなら、なんでも可能でしょう?」
「そこのところ詳しく!」

 私がさらに詰め寄ると、パタリと扇子をあおいだエブリア様が微笑んだ。

「その前に、どうしてまだ恋人ではないの?」
「残念ながら、彼は私のことを異性だとは思っていないようで……」
「獣人だから、あなたの魅了魔法にもかからないって言っていたわね」
「はい。本人にも確認しましたが、まったくかかってないそうです」
 
 改めて聞かれると悲しくなって、うつむいた。
 同情したのか、エブリア様が手を握り、なぐさめてくれる。

「でも、魅了がなくても、あなたは魅力的よ。それに、そのカイルとやらは、あなたのことを食い入るように見ていたと思うけど?」
「それは護衛だからです。一緒に寝ていても、なんにもないんですもの。よっぽど性的魅力がないんだわ」
「一緒に!?」

 驚愕されたので、慌てて誤解を解こうとする。

「違うんです! カイルは犬の獣人なので、犬の姿になって、足もとで寝ているだけなんです。護衛のために」
「護衛のためって……」

 あきれ顔のエブリア様に弁解する。
 公爵家からしたら想像もつかない話かもしれないけれど、カイルが側仕えと護衛をしてくれているのは男爵家の人手不足とお父様の私への関心のなさとの合せ技だった。

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