魅了たれ流しの聖女は、ワンコな従者と添い遂げたい。
 今度は業者の通用口のようで、オランは俺に周囲を確認させた後、スタスタと門番のところに行き、なにかを見せると、俺たちを呼び寄せた。
 ここを出たところにもう一台馬車を用意してあるらしい。

「あの馬車ですか?」
「そうです」
「じゃあ、走りましょう。嫌な気配が近づいています」

 そう言うと、俺はアイリ様を抱き上げ、走り出した。
 アイリ様を馬車にお乗せしていると、ぜいぜい息を切らしながら、オランが御者台に跳び乗った。
 御者に出発するように言ったようで、すぐ馬車が動き出した。すごいスピードで走っているので、ガタガタと激しく揺れる。

「アイリ様、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫よ」
「しんどければ、俺に寄りかかってください」
「ありがとう」

 にっこり笑って、アイリ様は抱きついてきた。

(ア、ア、アイリ様、お胸が!!!)

 むぎゅっと押しつけられた柔らかな感触。
 チラッと見ると、俺の腕が胸の谷間に食い込んでいた。
 なんてエロくて幸せな光景なんだろう。
 俺の分身が勃ち上がりそうになる。

(いや、ダメだ! アイリ様の安心しきったお顔を見てみろ!)

 俺がアイリ様を性的な目で見ているなんて、バレてはいけない。
 必死で気分の萎えることを考える。

 蒸した日に脱いだばかりの臭い靴下。むさい男から迫られる。そいつのパンツ。
 
(うへぇ、萎えた)

 ガキの頃の実体験だったから、想像がリアルすぎた。
 その反動で、ついアイリ様の靴下を思い浮かべてしまう。
 あぁ、それならいつまでも嗅いでられる。
 うっとりしかけたときに、「カイル?」と鈴を転がすようなアイリ様の声。
 ビクッと跳び上がりそうになる。

(け、決してアイリ様のパンツまでは想像してないですから!!!)

 動揺が顔に出ないたちで本当によかった。

「どうかしましたか?」

 取り繕って答えると、なぜかアイリ様が一瞬落ち込んだような顔をされた。でも、すぐ視線をあげて、聞いてこられたので、気のせいだったかもしれない。

「このまま魔女さんのところまで行くのかしら?」
「いいえ、一度乗り換えるとオランさんが言っていました。追跡者を撹乱するために」
「そうなのね」

 そう言っている間に、馬車が停まって、オランがすぐ降りるように言った。
 降りるやいなや、馬車はまたすごいスピードで走り去った。
 そこは町中で、オランの誘導で裏道を通り、追跡者がいないことを確認して、別の馬車に乗り換えた。


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